[PR]子育てママさんへ:3年毎に15万円うけとれる医療保険?

そろばん塾
 小学校五年生のとき、ぼくはそろばん塾をクビになった。

 学校と違い塾にとって生徒は大切なお客様なわけで、よほどのことがない限り塾側から辞めさせられるなんてことは夢にも思っていなかった。
 しかも、ぼくが辞めさせられた理由は単なる遅刻である。特別出来が悪かった訳でもなく、特別授業態度が悪かったわけでもなく、ただ三回続けて遅刻をしただけだ。
 そろばん塾の先生には、書道教室の片付け当番で遅くなりました、とか言って適当な理由を付けていたのだが、遅刻の本当の理由は友達と遊んでいたからだ。
 だからといって、遊びに夢中になりそろばん塾の時間を忘れてしまっていた訳ではなく、そろばん塾の時間と遊びを切り上げるタイミングが、たまたま三回続けてあわなかっただけの事である。
 だけの事であると言ってしまうと大した事ではないように聞こえてしまうかもしれないが、遊びを途中で切り上げるというのは僕にとってはかなりの難事で、何事にも中途半端な僕ではあったが、遊びに関してだけはキリのいいところまでキッチリしなければ気が済まなかったのだ。

 そろばん塾をクビになってしまったぼくは、真っ直ぐ家に帰る気になれず、かといってそのまま遊びに行くほどの図太い神経も持ち合わせておらず、早かれ遅かれ母親にこの事を告げなければならない気の重さから、少し歩いては立ち止まり『なんで遅刻ぐらいでクビなんだよ、月謝だってちゃんと払ってるのにあいつホントむかつくぜ』とか、また少し歩いては『Kの奴(そろばん塾の先生の息子で学校は違うが同じ幼稚園に通っていた同級生である)絶対泣かせてやる』とか『家に帰ったらお母ちゃんに何て言おう』とか、いろんな事が頭の中を駆けめぐり、益々足が重くなっていったのだった。

 途方に暮れトボトボと歩いていると、そこへ姉が偶然通りかかった。
 ぼくは姉と目が合うなり急に何故だか分からないが涙が溢れてきて止まらなくなってしまった。
 普段なら道端ですれ違っても、まるで他人のように目も合わせずに通り過ぎて行ってしまうのだが、突然ぼくが泣き出したので、さすがに姉もビックリしたようで声を掛けてきた。
 「あんたこんな所で何しとんの?塾は?」
 「クビだって」
 「なんでぇ?」
 「知らん」
 「知らんて、あんたまたなんかやったんでしょ?」
 「なんもしてーへんわ」「遅刻したでクビなんだってさ」
 「なんでもいいけどこんな所で泣きながらぶらぶらしとってもしょうがないんだで早よ家に帰りんよ」
 「うん」
 「じゃあお姉ちゃん行くでね」
 「うん・・・」
 姉は心配そうに僕の方を二三度振り返り坂の向こうへと消えていった。
 それでもまだぼくは家に帰る気になれず、家の前の海岸へ行き、防波堤に腰掛けぼんやりと海を眺めながらいろんな事を考えていた。
 『先生のムカツクところ色々・・・お母ちゃん怒るだろうなぁ・・・なんで俺そろばん塾なんか通っとるんだろう・・・今日の晩ご飯なんだろう・・・あっ!魚が跳ねた・・・今日も○○ちゃんカワイっかたなぁ・・・おっ!あした学校休みじゃん・・・あいつ(塾の先生)ムカツク・・・怒られるだろうなぁ・・・ムカツク・・・怒られる・・・○○ちゃんが好きだ〜・・・うわっ!また魚が跳ねた・・・etc』
 40分程そうしていただろうか、その時、ふと、ある事を思い出した。
 それはたぶん僕がそろばん塾をクビになった本当の理由に違いない。
 

 前回のそろばん塾の時、授業中に突然おしっこがしたくてたまらなくなった。しかし、『授業中にトイレに行くなんていう恥ずかしいことは俺には出来ない。でもしたい。しちゃダメだ。でもしたい。いや絶対にダメだ。したい。ダメだ。うわっもうダメだ。』5分位葛藤を続けていたとき、
 「先生、トイレに行ってもいいですか?」っと、とても可愛らしい女の子の声が僕の後ろの方からした。
 「すぐ行ってらっしゃい。」先生が言った。
 少女のその勇気ある行動に、ぼくは感動し、恥ずかしがってばかりいてはダメだと思い、遂に「先生、トイレに行ってもいいですか」っと、勇気を振り絞り僕にとって禁断のセリフを口にした。
 「お前もか、トイレは授業が始まる前に行っとけ。・・・行って来い。」
 「ハイ」っと返事をし、『さっきと全然違うじゃねぇかコノヤロウ!一言多いんだバカ野郎!』と心の中で捨てぜりふを吐きながらトイレへと急いだ。

 塾のトイレは初めてだったのと、漏れそうだったのと、先生へのムカツキからとで、トイレの構造に何の疑いももたずに僕は扉を開けた。次の瞬間、とんでもない恐ろしい光景が僕の目に飛び込んできて、ほんの一瞬だったがその光景を目に焼き付けてしまった。
 扉の中には和式便器が一つしかなく、そこに先程の勇気ある可愛らしい声の少女が和式便所特有の所謂ウンコ座りで顔だけをこっちに向け、ビックリしてキャーっと叫ぶわけでもなく、睨み付けるような目つきで、しかも先程の可愛らしい声とは全く別人のかなり低い冷めた声で、「なによっ」っと一言だけ呟いた。
 彼女より僕の方がビックリしてしまい、その、あまりの恐怖からおしっこをしたかったことさえ忘れてしまい、しかも、開けた扉を閉めることも忘れて教室に戻ってしまったのだ。
 しばらくして彼女も教室に帰ってきた。そしてまるで般若の様な目つきで睨み付け「アンタ、覚えときなさいよ」っと言って僕の横を通り席に着いた。
 すると当然の事ながらトイレの構造を知っている先生は僕に向かって「トイレ空いたぞっ」っと言ってきた。ぼくは「あっ、もう大丈夫です。」っとかなり上擦った声で答えたのだった。
 その後はもうそろばんなど全く手につかず、『なんでだよ、生徒は一クラス50人位もいるんだから、当然トイレだって男子用と女子用と分けておくべきだろう』とそんなことばかり考えていた。
 (最近では男子用と女子用と入り口が別になっているのが当たり前だが、当時公園などの公衆便所は入り口は一つで、男子用、女子用ではなく大きい方、小さい方というようになっていた。要するに現在の男子トイレだけの状態である。しかし今回は扉の大きさ、トイレの大きさからいって、完璧に僕の判断ミスである。)

 僕は海を眺めながらその時の光景を思い浮かべ、きっとあの後あの子があの事を先生にチクッたに違いない。だから僕はクビになったんだ。そうか、そうだったのか、やっと分かったぞ本当の理由が。やっぱり遅刻なんかでクビになるはずないんだよなぁ。っと思った瞬間、僕は何だかスッキリした気分になって、どっちにしても怒られるという事などすっかり忘れて家に帰ってしまった。

 その後のことは敢えて言うまでもないだろう。
 母親にしこたま怒られた。
 怒られながらもあの時の彼女の般若のような顔と、「なによ」という言葉と、彼女のそれはそれは可愛らしい綺麗なお尻が頭の中から離れなかった。

 今でもその時の事を思い出すと熱い物が込み上げてくる。下半身に。(冗談)
 失礼しました。 


[PR]100万円が当る!妊娠・出産:赤ちゃんの子育て費に♪無料でプレゼント