素朴な疑問(おばあちゃん)
 最近は全くと言っていいほど見掛けなくなった、腰がほぼ直角に曲がっていてそれでも元気に乳母車を押して歩くお婆ちゃん。 もう亡くなってしまったが僕のお婆ちゃんもそうだった。

 ぼくは幼い頃プロレスが大好きで、プロレスをテレビで見るたびに、腕立て伏せや腹筋などをして体を鍛えていた。(毎度のことだがそれは、プロレスを見たその直後だけで2日と続いたことがない。 なにかにつけてぼくはそういうところがある様で、それは残念なことに現在もそうである。 要するに熱しやすくて冷めやすい。)

 ある日のこと、腰をほぼ直角に曲げて、乳母車を押して歩くお婆ちゃんの姿を見てある疑問を抱いた。それは、あの姿勢でよく30分も1時間も歩けるなぁということだ。 ぼくがいくらプロレス好きで体を鍛えていても、あの姿勢で歩くのは5分ともたないであろう。恐るべしお婆ちゃん!

 それともうひとつ、お婆ちゃんは寝るときどうなっている(寝姿)のだろうということ。
 『まさか寝るときは足だけが宙に浮いているのでは!』っとバカなことを真剣に考え、頭の中でその姿を妄想し、ひとりで腹が捩れるほど笑い転げたことを覚えている。

 ぼくはプロレスを見るときは何時もお婆ちゃんの家(二世帯住宅だったので同じ屋根の下)で見ていた。ぼくは3人兄弟の末っ子なので、何時もテレビのチャンネル争いに負け、そのたびに「おばあ〜ちゃん テレビ見せて〜」と言ってお婆ちゃんの家に行くのだ。するとおじいちゃんとおばあちゃんはプロレスなどに興味は無かっただろうが、いつも笑顔でチャンネルを合わせてくれ、お菓子をだしてくれるのだった。(おばあちゃんの出してくれるお菓子は大抵がボーロかあられで、いつもなんとなく湿気っていてあまり好きじゃなかったが、その優しさは十分感じていた。)

 そんなある日、例のごとくおばあちゃんの家でプロレスを見ていて、ふと、おばあちゃんの寝姿のことを思い出し、おばあちゃんを見た。 おばあちゃんは横になって寝転んでいた。その姿は立っている時と同じく、くの字になっていた。ぼくは『頼む、おばあちゃん。一度でいいから仰向けになって寝てくれないか!』と心の中で叫んでいた。
 ちょうどその頃テレビでは、アントニオ猪木がタイガージェットシンに逆エビ固めを掛けていた。それを見た曲がったことの嫌いなぼくは、おばあちゃんの曲がった背筋を伸ばすべく、おばあちゃんに逆エビ固めを掛けたいという、それはそれは恐ろしい衝動に駆られていた。

 
<あとがき>
 現在ぼくは、横浜という大都会に住んでいるせいか(都会の歩道は段差が多すぎるし車も多く、乳母車を押して歩くような道すら無いように思える)、それとも、最近のお年寄りは姿勢がいいのか、ほとんどそういうお年寄りを見掛けなくなった。
 それがどういうことなのか判らないが、どんなに腰が曲がろうが元気に歩き回るお年寄りの居る風景が懐かしく思える今日この頃である。