小学生だったある秋の夕暮れ時、友達の家からの帰り道
夕日を背にして歩く小さな僕の影はとても大きく長かった。

 それまであまり影というものを意識したことが無かった僕だったが、そのあまりに長い影に大きな感動と少しの恐怖を覚えた。
少しの恐怖というのは、以前心霊写真集を観ていた時、その中のひとつに三人のスキーヤーが楽しそうに並んでゲレンデを滑っている写真があった。しかしその内の一人だけに影が写っていなかったのだ。
 そのことを思い出し僕の影が急に無くなったらどうしようと思い少し足早になった。

 そうして暫く歩いていると、それまで空をオレンジ色に染めていた夕日も沈み、あっという間に辺りは真っ暗になり街路灯も付き始めた。
 秋という季節柄もあってか何だか急に寂しくなり影の事などすっかり忘れていつの間にか早歩きから小走りになっていた。
 すると背後から足元にかけて何か 得体の知れない気配を感じ、僕は怖くなって足を止め、恐る恐る後ろを振り返ってみた。しかし誰もいない。犬やネコのいた様子もない。
 僕は恐怖を紛らわす為に、これはきっと気のせいだと自分に言い聞かせながら、何度も後ろを振り返りながらまた歩き出した。そして何気なく下を見たとき一瞬息を呑んでしまった。
 ついさっきまで僕の前にあった筈の影が消え、歩く方向は変わっていないにもかかわらず、後ろにあるではないか。
 僕は恐怖のあまり猛ダッシュで走り出した。(もしその時のタイムを計っていたら、間違いなく小学生の部で世界新が出ていたに違いない!!)走り出して直ぐ、今度は後ろにあった影が横に、そして走りには自信のあった僕を追い抜き前に来るではないか。パニック寸前の僕はとりあえず次の街灯のところまで全力疾走した。
 そしてそして、街灯の灯りの下でハァハァゼィゼイ言いながら膝に手をつき足元を見ると、なんと今度は四方八方に影があるではないか。
 もう形振り構わずその辺の民家に飛び込もうと思ったぐらいだったが、そんなパニック状態の中にあっても、まだほんの少しだけだが冷静な部分が残っていた。『もし迂闊にこのまま見知らぬ人に助けを求め、玄関を叩こうものなら、中から出てくるのは大抵がのっぺらぼうかろくろ首と相場は決まっている。』『僕は勉強は出来ないがバカじゃない!そんな手にはまってたまるか!!』と思った僕は、もうこれはとにかく家まで全速力で走るしかないと、またまた走り出した。(結局ただのバカだった。)
 そして止めどなく流るる鼻水を、服の袖で拭いつつ走り続け、あともう少しで家に着くというときになって、ようやく謎が解けた。
 影というのは光に対し・・・・・・・・・・あー面倒くさい!!!と言う訳だ。。。

 子供の頃というのは、何でもないことが大発見であったり、摩訶不思議な事であり、恐怖であり、今では面白くも何ともない事が腹を抱えて笑えることだったような気がする。
 歳を重ね、そういった感情も薄れ、賢くなったというよりズルくなってしまった自分を今寂しく思う。

 小学生だったある秋の夕暮れ時、友達の家からの帰り道
夕日を背にして歩く小さな僕の影はとても大きく長かった。